ICT支援室について

本年5月より福井大学工学部・福井高専教員・金沢星稜大学河野教授の支援を得て“発達障害の生徒を対象とするICT支援教室”を開催しています。小学生から高校生まで幅広い年齢の児童が参加、“うちの子はパソコン教室の日を楽しみにしています”とほとんどのお母さんからお聞きします。1クラス10名、合計50名の生徒は全員真剣にパソコンに向かっています。コロナウイルス騒ぎが、いまだにハンコとFAXという日本のデジタル化の遅れを世界中に知らしめてしまいました。教室にIT機器を持ち込むこと(=究極の合理的配慮)をあれほどかたくなに拒んできた教育現場が音をたててICT化に向かっていることを実感します。これから数年で全国の学校で、生徒が1台ずつパソコンを持つことになります。支援室の生徒がそのころにはパソコン名人になっていて、クラスの友達にパソコンの使い方を教えてあげれるようになっていることを楽しみにしています。

ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、通信技術を活用したコミュニケーションを意味します

ディスレクシアとICT

小さいときからきちんと日本語を聴き、絵本なども読んでもらい、学校に通い宿題も一生懸命やってきたのに読み・書きがなかなか熟達しないこどもを読字障害とか書字障害と言います。黒板の字をノートに書き写すのも大変です。従来の文字の学び方では他の定型発達のお子さんと同じスピードで読んだり書いたりできないこどもたちです。学年が上がるにつれて文字はますます増え、漢字も画数が増えてきます。多くの場合成績(=試験の点数)が低くなり、自尊感情が低下学校嫌い不登校の悪循環に入ります。発達障害の中でDDは最も不登校になりやすいというデータがあります。 “発達性ディスレクシア(Dyslexia:以下DD)は、『知的能力や一般的な理解力などに特に異常はなく、読み書きを学ぶという生育環境に問題がない(=読み書きについて十分な教育を受けてきた)のにもかかわらず、文字の読み書きに著しい困難を抱える障害』と定義されます。言い換えると鉛筆(ボールペン)を使った読み書きの指導では解決しないということです。DDの子どもたちの大多数は、日本語の文章をボールペンで実用レベルで書けるようにはならないと私は思っています。ましてや、読み書きとしての英語を教えることは、ほとんど意味のないことだと思っています。彼らが書き言葉としての日本語を操れるようになるためには早期からのICTの導入が必死です。同じことは特別支援学校でも読み書き指導にも言えるのではないかと思います。

ICT支援室発足の経緯

当クリニックでは、2003.4.11の開設以来、学習障害とくにディスレクシアの診断と療育に取り組んできました。その成果は書籍・学会誌・学会発表の形で報告してきました。5~6年前から金沢星稜大学河野教授の指導による支援機器グループを開催、言語個別指導の場面でもiPadなどICTを重視してきました。並行して竹内・政井両先生の指導で学習支援室も開催してきました。読み・書きの苦手なお子さんの支援はICT機器を使いこなせるように支援することに尽きます。昨年の第2回ディスレクシアセミナーin Fukui ではICTをテーマとしました。DDやASD(自閉症スペクトラム障害)の児童の診療の中で“彼らのためのパソコンスクールが開催できないか”毎日のように考えてきました。この構想と既に開講している“DD生徒のための学習支援室”を合わせたものができないかと考え、知能工学やロボット工学などを専門とする福井大学工学部・福井高専の教官及び長い間クリニックでDD対象の支援機器グループの指導をされてきた河野先生の協力を得てこの構想が具体化してきました。この教室の目的は、勉強を教えることではなく、勉強の基礎となくICTを使いこなせる子どもを育てることです。それでこの教室を学習支援室ではなく LD・ICT支援室(仮称)と名付けます。

LD支援教室の基本目標・対象・クラス編成

  1. 対象:対象児童はLDとその周辺の子どもたち(ADHD/ASDも含む)小学校1年生から高校生まで基本目標:将来の学習の基礎となる読み書きの力をICT使用で向上させ、ICTを使いこなせる子どもを育てる
  2. 特別支援教育・医療・工学関係者が共同する。
  3. 特別支援教育をよく理解した教員経験者・ICTを指導できる専門家(工学部大学院学生・学生なども)・クリニックスタッフ・子どもの傍でパソコン操作などを支援できるスタッフ(ある程度のパソコン操作ができる人:保護者など)
    開始直後は、子供たちも不慣れでありスタッフ対生徒は1:2を目安にしていましたが、開始してみると1対1に近いスタッフが必要でした
  4. 子供たちの居場所づくり(彼らは友達が少ない。友達作りの場を提供する意義は大きい)