治療の実際

治療(療育)の基本は、一般的な小児慢性疾患の場合と同じく、早期発見・早期療育と生涯にわたる見通しを持った指導にあります。早い段階では音韻認識を高める訓練、フォニックス(音声で覚えた言葉を文字に移行する過程をスムーズに行えるようにするための指導法:米国で行われている)やデコーディングがスムーズにできるための指導(鳥取大学方式)、音素認識、語彙を増やすなどの指導があります。小学校高学年からは、教室での機器の使用や録音図書の用意、試験の制限時間の延長などの特別な配慮を行います。
同時に、LDであるために受ける学業・就労での挫折などの心理的な辛さや自己評価の低さなどのLD Traumaに対する個別カウンセリング療法や並存するADHDやASDへの対応も重要です。

ディスレクシア治療の一例

 ADHDを併存したディスレクシアの代表的な症例の治療ケースをご紹介します。

主訴

①読み書きが著しく苦手
②集中力がない

経過

就学までの話し言葉の発達には特に問題なかったようでしたが、文字に興味はなく、絵本の読み聞かせも最後まで着席して聞くことができませんでした。ひらがなは就学前には読めず、2年生になっても清音の一部、拗音、促音を書き間違えます。初見の文章の音読はたどたどしいですが、数回読むと覚えるので読み誤りは少なくなり、すらすら読めるので担任は読みには問題はないと思っていました。

診断

 稲垣式読み検査でひらがな単音・無意味語の流暢性が低下しています。「は」と「わ」を書き間違えます。漢字は苦手で鏡文字が多く、送り仮名を間違えるなどに加え不注意さが目立ち、ADHDを併存するディスレクシアと診断されました。

治療経過

①薬物(コンサータ)治療の効果
宿題をこなす時間が短縮されました。順序立てて話ができ、書字がきれいになり記憶の定着がみられたほかADHDの症状も改善されました。

②クリニックの担当との言語個別指導
言語個別指導を、中学卒業まで続けました。

③小学校の担任の理解
担任の理解で、特別な配慮がなされました。
特に効果があった配慮は、あらかじめ漢字の試験問題をその児童にだけ教えるというものです。試験問題を何度も練習できるので、100点はとれなくても70点程度はとれるようになりました。これを繰り返すうちに、試験問題を教えることなく70点をとれるようになりました。
また、ほかの児童の前で教科書を読む際は、あらかじめ本人に伝えた上で指名したことで、恥をかかずにすみました。作文などは、ワープロで書いて提出を認めてもらいました。

④家族や塾の先生の理解と協力
小学4年生からパソコンスクールに通い、学習塾の先生とも連携しました。また、家族や塾の先生の理解と協力に加えて、本人の努力もありました。本人はコツコツ勉強し、小学4年生からパソコンスクールに通いブラインドタッチをマスターしました。学習塾の先生も本人のDDを理解し、クリニックに来て担当と情報交換もしました。

⑤中学校での理解
 小学生時代は学力全般も伸びましたが、中学では学力テストで良い点がとれませんでした。そこで“成績は本人の教科理解を反映していないので、特別な配慮として志望校への学内推薦を要望”する診断書を2度にわたり提出し、校長の判断で学内推薦が得ることができ志望校に合格しました。

周囲の協力が必要

DDの子どもと長年付き合ってきました。止め・撥ねの大切さを教えるため毎日漢字ドリルを課せられる小学校や、学力テストの結果に一喜一憂する中学時代さえ乗り越えれば、DD児童は高校では見違えるほど楽しくなります。
また、高等教育を目指す生徒は、多様な「学業成績」評価を実施する大学や専門学校を目指すことで自立に近づくことができます。将来職業につくことができるかどうかは、DDに合った職業選択にかかっています。本人の努力はもちろん、それを学校や家族がサポートする姿勢が重要です。