平谷こども発達クリニック
院長 平谷美智夫

ディスレクシア(Dyslexia:読字障害)とは

学習障害の一つ

学習障害とは、知的な発達に異常はなく、視力や聴力にも問題がなく、教育を受ける機会に恵まれているにもかかわらず、特定の学習領域に落ち込みがみられるものです。原因としては、何らかの脳の機能障害が推定されています。アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では、

①読み(正確さと流暢さ)、②文章理解、③書字、④文章記述、⑤数の操作、⑥数学的推論

のうちどれか一つでも困難さがあり、感覚器官の障害や他の精神神経疾患、環境要因がなければ、限局性学習症/限局性学習障害(Specific Learning Disorder:以下LD)と診断します。特に①の「読み」に関する学習障害をディスレクシアと呼びます。

読字の障害があると書字の困難も呈するため、読み書き障害と表現されることもあります。さらに発達期に生じるので、成人に発症した機能障害と区別するために「発達性ディスレクシア(Developmental Dyslexia:以下DD)」と称されることもあります。文部科学省の定義(1999.7)では、全般的な知能発達に遅れはないが「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態をLDと呼び、医学の定義と若干違いがあります。

国際的に広く受け入れられている、国際ディスレクシア協会(International Dyslexia Association, 2003)の定義は次のようになっています。

Dyslexiaは、神経生物学的原因に起因する特異的学習障害である。それは、正確かつ流暢な語の認識の困難さと綴りや文字記号の音韻化(decoding)の障害により特徴づけられる。これらの困難さは、典型的には言語の音韻的要素の困難さであり、それは他の認知能力や教育環境に障害がないのにもかかわらず存在する。二次的結果として、読解能力の低下や読み経験の不足が生じ、語彙や知識の増加が障害される。

日本学校保健研修社 『健』2018年2月号より

ディスレクシアの症状

ディスレクシアはADHD(注意欠陥多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム障害)を高い頻度で合併しますので、DD児にはADHDやASDの症状も混じっています。併存症も複雑で一人ひとり症状はさまざまです。
「読み」は文字を見て、文章の内容理解に至るプロセスです。その過程は、まず「文字を音に変換するデコーディング」、次に「音声言語に返還された文章内容を理解すること」であり、DDの重要な病態は①のデコーディングが困難です。文字から音への変換ができず(読めない)、時間がかかり(逐次読み)、その結果文章理解にたどり着くのが困難な状態です。
年齢に応じて、基本症状である『読むのが苦手』に関連した様子が出現します。就学前の児童では、話し言葉の問題(言葉の遅れ)に関連した症状、小学生以降では「単語の発音を間違える」「流暢に話せない」「事物の名前を的確にいえない」「読むスキルの習得が遅い」「読むときに単語をとばす」「音読を嫌がる」などの症状が出ます。年長児では時間とともに読書の正確さが改善されますが、依然として時間はかかります。綴り字の困難はほとんどの場合、口頭での読書に認められる音韻性の障害を反映しています。思春期~青年~成人期には「人名や地名を覚えるのが苦手」「言葉を思い出すのが苦手」「すらすら読めない」「試験を時間内に終わることができない」などの症状が出ます。家族性かつ遺伝性であることが多いので、しばしばきょうだいや親にDDやADHD、ASDが見られます。子どもは宿題を含め、1日の作業の大半が「読み書き」です。それが苦手な子どもには、読み書き中心の授業と宿題は地獄で、登校渋りを含めて重要な問題です。中学ではほとんどのDD児が、英語が極端に苦手になります。

日本学校保健研修社 『健』2018年2月号より